大阪・天王寺の駅近く、にぎわう街並みのなかにそっと佇む一軒の居酒屋「恵美寿屋」。その暖簾をくぐると、カウンター越しに迎えてくれるのは、素材への深い愛と豊富な知識をもつ大将。ここは、仕事帰りのひと時や静かな夕べにふらりと立ち寄るのに最適な、「おひとりさま」歓迎の店である。
恵美寿屋の魅力は、何よりもその落ち着いた雰囲気と大将の温かな人柄にある。「今日は何かいい肴があるかな」と席に着くと、気さくな会話が始まる。大将が選び抜いた旬の魚介や季節の野菜、日毎に変わる小鉢は、どれも滋味深い味わい。メニューは黒板に手書きで並び、その日の“特別”が所せましと書かれている。困ったときは「おすすめを」と尋ねれば、大将がその時々の食材やお客の好みに合わせ、一献に合う逸品を提案してくれる。
この店のもう一つの醍醐味は、“一期一会”の出会いにある。同じ料理でも、その日の仕込みや市場での出合いによって微妙に味わいが異なる。それを受け止めて楽しむのが、恵美寿屋での醍醐味だ。日本酒や焼酎の品揃えも充実しており、「今日はこの酒を合わせてみませんか?」とすすめられるままに盃を傾け、新たな味覚との出会いに心が弾む。とくに地酒や季節限定酒は、酒好きの間でも高い評価を得ている。
店内はカウンターが中心で、10数席程度のこぢんまりとした空間。おひとりさまでも気兼ねなく居られる空気感を大切にしている。常連はもちろん、初めて訪れる客にも分け隔てなくおすすめや会話をしてくれるので、一人でも疎外感なく食事と酒を楽しむことができる。
天王寺界隈といえば賑わう飲み屋街が並ぶエリアだが、恵美寿屋はどちらかといえば“静けさを味わう粋な店”。賑やかな居酒屋では味わえない、ゆったりとした時間が流れている。仕事帰りに一杯、または週末の自分だけのご褒美にもぴったりだ。「今日は大将おまかせで」と注文すれば、その日ごとの一期一会の美味にめぐり合える。食を通じて季節を感じたい人、静かにお酒と語らいながら心ほどけるひとときを過ごしたい人にはまさに理想的な場所といえるだろう。
「恵美寿屋」は、派手な宣伝も目立つ看板もないが、そうした控えめさもまた、店の“粋”を体現している。美味しい酒肴と大将との温かい対話に出会える、天王寺の隠れた名店である。